散歩していて、進行方向にカラスが群がっていると、身構える。黒いし、鋭いくちばしが恐ろしいし、何より賢いと言われているので、下手に威嚇でもしようものなら、恨まれて、後で死角から攻撃されるのではと冷や冷やする。もう20年前くらいの話だが、家に帰るたびにどこからかカラスが飛来してきた。その部屋はアパートの二階で、廊下の部屋と反対側には柵があった。ドアとその柵の間は1mもないくらいだ。柵の高さは顔くらいであった。その柵の上に、カラスが止まり、私がドアを開けて室内に入るまで、じっとみているということがしばらくあった。その頃は、ストーカーに怯える女性のように、帰宅するのが憂鬱であった。こちらからカラスに石を投げるとか、乱暴をした覚えはないので、単に舐められていただけなのだと思う。嫌なカラスだった。
早朝に歩いていると、人もいないし交通量も少ないので、地面をトントンと歩いているカラスをみかける。平和なものである。ガーガーやかましく鳴いたり、空中でアクロバットをしながらびゅんびゅん飛び回っていなければ、そんなに怖いとは思わない。2羽が肩を寄せ合って並んでいるのをみると、微笑ましい気にもなる。
ある日、古くて小さいアパートに、それは4戸しかない木造だが、10羽くらいのカラスが、1階の右側の部屋の前に群がっていた。塀の上にも、玄関外の洗濯機の上にも、カラス、カラス、カラスである。この部屋には老婆が一人暮らししている。アパートは私の散歩コースにあり、たまたまドアが空いたときに、視界に老婆が入ってきたから知っているのだ。
多くのカラスが、その狭い一角に集中しているのは異様な光景だった。もしや、中で老婆が、、、死臭をカラスが嗅ぎ分けて、、、などと恐ろしさが増幅した。ゴミを狙っていたのかもしれないが、あんなに多くの集団が群がるだろうか。真相はまだわからない。通報したほうがよかったのだろうか。
そんなわけで、カラスは恐ろしい存在である。美しい景観の公園も、カラスが幅をきかせているようだと、落ち着いて過ごせなくなる。だから、近くにカラスがいるときは、伝わっているのかは不明だが、私には敵意はありませんし、攻撃する意図も持ちませんよと、アッピールしながら、しずしずと通り過ぎるようにしている。下手に恨まれて、覚えられては困るからである。時にはイライラしていて、来るなら来いという気持ちになることもあるが。
カラスには、記憶力があるのだろうか。そして、恨みという感情もあるのかどうか。カラスに対して攻撃的な人もいるが、そういう人は、後でカラスから報復されているかというと、そんなこともないのではないか。むしろ私のように、必要以上にびびっていると、彼らの攻撃欲求を掻き立ててしまうのかもしれない。攻撃は最大の防御ということだろうか。
一方、本当かどうかはわからないが、怪我をしたカラスを世話をした人には、恩を受けたカラスは光り物や食べ物を届けにくるということもあるようだ。やさしいのカア?
そういう一面もあるのかもしれない。ただ、幼鳥ならまだしも成鳥の鋭いくちばしや鉤爪は、かわいいよりも怖いが先にくる。どうか、私をターゲットにしてくださらないよう、切に切に、お願いしたい。